基本的に樹脂は絶縁物です。しかし、用途により静電気の防止やホコリの不着などを防ぐ場合には、”導電性”と”帯電防止”の樹脂・グレードを使用することが一般的です。
皆様はこの”導電性”と”帯電防止”の違いはご存じでしょうか?
樹脂に詳しい方でも明確な違いが分かる方は少ないのではないでしょうか。
そこで、今回は導電性・帯電防止の違いと選定のポイントについてご紹介いたします。
1.導電性・帯電防止の違い
まず、導電性・帯電防止の違いは電気抵抗値の違いになります。一般的には電気抵抗値10³~10⁵Ω-m程のものは「導電性」、電気抵抗値10⁹~10¹³Ω-m程のものは「帯電防止」、また、その間の電気抵抗値10⁶~10⁸Ω-m程のものは「静電気拡散性」と言います。しかしながら、メーカーによってその基準は様々であり、〇~〇Ω-mが導電グレードや帯電防止グレードという明確な線引きはありません。
イメージとしては、どちらも電気を通しますが、電気が抜けていくスピードが違うとお考え下さい。導電性は素早く(数秒~十秒)電気が抜けていきます。それに対して、帯電防止は、ゆっくりと(数十秒程)電気が抜けていきます。このように、導電性と帯電防止は電気抵抗値に違いがあります。ちなみに、絶縁体とは、導電グレードや帯電防止グレードではない通常グレードのことを指します。
下記表は導電グレード・帯電防止グレードの製品をまとめたものです。前述の通り、メーカーによって細かな数値は異なるため、あくまで参考としてご覧いただけますと幸いです。
材質 | メーカー | 導電グレード | 帯電防止グレード | ||
MC
ナイロン
|
三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ
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MC501CDR2 | MC501CDR6 | MC501CDR9 | MC500ASR11 (ノンカーボン) |
1²~10² | 10⁴~10⁶ | 10⁶~10⁸ | 10⁸~10¹⁰ | ||
PEEK
|
三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ
|
ケトロンCA30 | ケトロンESD490 | – | – |
≦10⁴ | 10⁸~10¹⁰ | – | – | ||
エンジンガー
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TECAPEEK ELS CF30 | TECAPEEK SD | – | – | |
10²~10⁴ | 10⁶~10⁹ | – | – | ||
ロシュリング
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SUATAPEEK CF30 |
SUSTAPEEK MOD ESD90
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– | – | |
≦10⁵ | 10⁶~10⁹ | – | – | ||
超高分子量
ポリエチレン
|
三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ
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タイバー1000EC | タイバー1000ESD | – | – |
≦10² | 10³~10⁷ | – | – | ||
三ツ星
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UHMW-ASB | UHMW-ASG | – | – | |
10⁴ | 10¹⁰ | – | – | ||
作新工業
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NL-ASB | NL-ASP | – | – | |
10³ | 10¹² | – | – |
※上記のほか、PEI(導電・帯電防止)、PAI(帯電防止)、PET(帯電防止)、PP(導電)、ユニレート(導電・帯電防止)があります。
2.導電性・帯電防止の選定のポイント
導電性・帯電防止の選定のポイントは、2つあります。
1つ目は、樹脂の用途から選定することです。
導電グレードはパレット・作業台・治具など常時帯電させたくない箇所に使用する場合に最適です。一方で、帯電防止グレードはパレット、治具などをはじめ、間仕切り・覗き窓・カバーなど異物(埃など)吸着を防ぎたい箇所に使用する場合に最適です。(帯電圧の管理が必要ない環境)
このように、樹脂の用途から導電グレード・帯電防止グレードのどちらが最適であるか考えることで、最適なグレードを選択することができます。
2つ目は、電気抵抗値をしっかり確認することです。
前述の通り、導電グレード・帯電防止グレードの基準はメーカーによって様々であり、明確な線引きはありません。そのため、電気抵抗値をしっかり確認せずに、導電グレードや帯電防止グレードを選択すると、期待通りの結果を得ることができないケースが稀に発生します。例えば「常時帯電させたくない箇所に使用するため、導電グレードを選択したが、想定よりも帯電してしまう」というような事態も発生する可能性があります。
そのため、導電グレード・帯電防止グレードを選定する際は、電気抵抗値の数値をしっかり確認することで、選定のミスを防ぐことができます。
3.最後に
通常の樹脂切削加工と比較すると、今回ご紹介した導電グレード・帯電防止グレードの加工は非常に難しいです。その理由は、導電グレード・帯電防止グレードを削ると、カーボンの繊維方向に素材が引っ張られ、反ったりねじれたりしてしまい思ったような精度や形状を出すことが非常に難しいからです。そのため、導電グレード・帯電防止グレードの加工を行う際は、厚い材料から反りを取りながら削る等の特殊な手法で加工する必要があります。
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